藤井監督「これが撮れた時に、傑作になるなと思ったシーンが」
――監督は印象に残っているシーンはありますか?
藤井:これが撮れた時に、この映画は僕にとっての傑作になるなと思ったシーンがあって。第一章で、柴咲が山本に「えらい頑張ったらしいな。ケン坊、行くとこあるのか」と声をかけるシーンですね。
あのセリフは、ケン坊に言っているだけじゃなくて、僕自身にも言われている気がしたんですよね。みんなカッコつけて生きたりしているけど、つながっていたいんだよなって。
あのセリフは舘さんじゃないと絶対に言えないし、あのシーンがあったからこの映画は走ってくれたんだなと思える、好きなシーンです。
舘:あのシーンは、綾野くんのお芝居に引っ張られましたね。彼がそこにいて、ただただ突っぱっている。それがあれば、あのシーンはスッと走っていく。
それまでの綾野くんは歯ぎしりまで聞こえるようなお芝居をしていたんですけど、あのシーンでは声をかけた瞬間に子犬のような目になった。そこが素晴らしいなと思いましたね。彼の中の奥深さを感じました。
――初めての藤井組の現場はいかがでしたか?
舘:これまでは、撮影所育ちの監督とご一緒することが多かったんです。藤井監督は自主映画を撮ってきた方ですし、今村圭佑カメラマンとの相性が素晴らしくて。2人で作っている画が今っぽいなと感じましたね。今回、本当に藤井監督と出会えて幸運でした。
藤井:恐縮です。舘さんはいつもお話する時にコーヒーを淹れてくださるんですよね。撮影中はずっと詰め込むんじゃなくて、コーヒーを飲みながら昔の現場の話や役の話をさせてもらう時間で生まれるものがたくさんあって。
今のことだけを知っていても、これからずっと映画を撮ることができるかは分からない。なので、いろんなことを現場で教えていただいて、自分にとって財産になりました。
舘:いやいや、教えるもなにも、世間話をしていただけだからね(笑)。
藤井:最初、舘さんとお会いするのはすごく緊張していたんですけど、それは逆に失礼だなと。リスペクトがあるので、一番いい舘さんを、そして柴咲を、僕は撮りたいんだと思っていろんなお願いを聞いていただきました(笑)。
舘:本当に現場が楽しかったし、驚きがありました。監督と今村カメラマンが話しているんだけど、聞いてもそれがどんな画になるのか分からないんですよ。映像を見て、こうなったのか、すごいなと思うことがたくさんありました。
――タイトルが「ヤクザと家族 The Family」ということで、今連載の共通質問として伺わせてください。お二人が“The Family=家族”と聞いて思い浮かぶものは?
舘:実家ですね。家族って血だと思うんです。どこかで血がつながっているんだなと。あとは、石原プロは家族でしたね。石原(裕次郎)さんがいて、渡さんがいて、ちょっと排他的なところもある中でお互いがお互いを庇い合っていたので。
藤井:僕は現場が家族ですね。他のことができなくて、映画に拾ってもらって、救ってもらって。一本一本の映画の組が、自分を肯定してくれる唯一の場所なんです。
舘:監督は自分の“我”は通すんですけど、スタッフにすごく優しく接していましたね。私もそんな家族の一員になれてよかったです。
藤井:意見がぶつかるときもありますけどね。でも今は昔と違って、何度も撮ることができるじゃないですか。お互いに良いものを作りたくて意見しているので、言われたら「やってみましょう」と断らないようにしています。
やってみると、現場で「こっちだね!」と決まるんですよね。自分の言うことを絶対聞いてほしいのではなく、いろんな可能性を探って粘っている感じですね。
――家族というものを、あらためて考えさせられる作品でした。
藤井:つながりってなんだろう、家族ってなんだろうと今一度考える時期なのかなと思っているので、見た方がそう感じてもらえたらうれしいです。
舘:家族は脆くて、男は弱くて、母は強い。この映画はすごく愛にあふれています。
◆取材・文=横前さやか
◆スタイリスト:中村抽里/ヘアメーク:岩淵賀世(以上、舘ひろし)
1月29日(金)全国公開
出演=綾野剛
尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗
菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎
岩松了、豊原功補/寺島しのぶ
舘ひろし
監督・脚本=藤井道人
音楽=岩代太郎
主題歌:「FAMILIA」millennium parade(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給=スターサンズ/KADOKAWA
製作=『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
公式サイト=https://yakuzatokazoku.com/
(C)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会