――柴咲組の組長を舘さんにオファーしたのは、監督のラブコールだったそうですね。
藤井:僕自身が舘さんのファンだったので、企画の段階で「柴咲は舘さんがいい」と言ったらプロデューサー陣から「何言ってるんだ、オファーを受けてくれるわけがない!」と言われて(笑)。
でも、聞いてみないと分からないでしょ?ということになり、実際にオファーをしてみたら受けていただけました。
舘:お話を頂いた時は、事務所スタッフが「タイトルが反社的なので断ろうと思うんです…」と言ってきて。でも、台本を読んでみたらすごく面白くて、事務所の反対を押し切ってもやりたいと思って(笑)。
普段、台本を読むと辻褄が合わなかったり間延びしていたりどこか引っ掛かる部分があったりするんですけど、この作品の台本にはそれがなかった。タイトルこそ反社的でしたが、作品全体には愛があふれているのを感じたんです。
藤井:今回、僕が柴咲に欲しかったのは、従来のヤクザ映画にあるような殺し合いをする怖さというよりは、“父性”だったんです。それを考えた時に舘さんしかいらっしゃらないなと思ったので、受けていただいて本当にうれしかったです。
――そんな柴咲という役に、どうアプローチしていったのでしょうか?
舘:柴咲は昔気質のヤクザで、義理人情を大切に生きていた男だと思います。すべてが愛にあふれているんですよね。僕は、普段は(役に)アプローチするタイプじゃないんです。
でも、演じている時にふと「俺は渡(哲也)さんを追っているんだな」と感じる瞬間があったんですよね。監督はフレキシブルな方なので、現場でセリフを変えさせてくれるんです。
そんな時に「これ渡さんだったらどう演じるんだろう」って思ったりして。僕的には柴咲のモデルは渡さんですね。
藤井:台本の段階では、自分の信じた柴咲がそこにいるんですけど、やはり台本に書かれたセリフは生の言葉じゃないんですよね。
それを舘さんが柴咲博として発している時に「やりづらいかな」と思っていると「監督、こんなふうに変えていいかな?」と提案してくださって。どんどんリアリティーを帯びていくのが、現場ですごく楽しかったですね。
――印象に残っているシーンは?
舘:柴咲組と抗争を繰り返す侠葉会組長・加藤雅敏(豊原功補)を脅すシーンですね。あのシーンがないと、柴咲はただの人が良いおじさんになってしまうなと思って、監督に「ちょっと、いろいろやってみていいですか」と伺って。
最初は拳銃を持っていって、テーブルにドンッと置いていいか聞いたんですけど、監督が「それはちょっと…」って(笑)。確かに、拳銃を出すとエンターテインメントになっちゃうなと思ったので、反対されて良かったですね。
藤井:そうですね(笑)。
舘:でも、やっぱり自分の中で弾ける芝居が欲しかったんです。そこで、「水をかけていいですか?」と聞いたら、「いいですよ」と許可が下りました。
藤井:当日にお芝居の段取りをしていた時に提案いただいて、じゃあやってみましょうとなりました。そのシーンを編集している時に、あらためて水をかける芝居で良かったなと思いましたね。
舘:それまでの柴咲とは違って、完全にヤクザの顔になっているシーンですね。
――柴咲の顔には古傷があるので、奥底の怖さは感じていました。
舘:その傷も、僕が提案させていただきました。
藤井:そうやって提案していただけるのがオリジナル作品の良いところだなと思っていて。自分の脳からあふれ出たキャラクターたちに、演じる役者さんが過去を作ってくれるというのが素晴らしいなと。台本を読んだ俳優部たちの言葉を取り入れて、それを放出できるのがうれしいんですよね。
1月29日(金)全国公開
出演=綾野剛
尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗
菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎
岩松了、豊原功補/寺島しのぶ
舘ひろし
監督・脚本=藤井道人
音楽=岩代太郎
主題歌:「FAMILIA」millennium parade(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給=スターサンズ/KADOKAWA
製作=『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
公式サイト=https://yakuzatokazoku.com/
(C)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会