コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットな漫画情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、魔木さんの「おじいちゃんVtuber」をご紹介。VTuberとは、2Dまたは3Dアバターを使って活動するYouTuberのこと。アバターにはさまざまなキャラクターがあるが、美少女のアバターを使うVTuberのことを、「バーチャル美少女受肉」略して「バ美肉(バビニク)」と呼ぶ。アバターが美少女であっても、操作するいわゆる“中の人”は男性であることもしばしばだ。さて、妻に先立たれたあるおじいちゃん。彼には秘めたる願望があった。「スカートを履きたかった、化粧もしたかった、なんなら男性と付き合いたかった」。そんな彼が知ったのがVTuberの世界。VTuberになれば美少女になれる!と考えたおじいちゃんはVTuberへの道を歩み始める…。おじいちゃんの奮闘ぶり、そして思いがけず人気VTuberとしてスターダムを駆け上がる様子に多くの人が釘付け。ほぼ毎日Twitterで更新されているが、毎回2万いいね以上がついている。魔木さんに作品が生まれたきっかけや、反響について感じていることなどを聞いた。
思いつきでスタートした作品。Twitterでの反応によって展開が変わるかも!?
ヤングアニマルで連載中の『魔法中年』では、原作を担当している魔木さん。『魔法中年』は、魔女退治をする魔法少女のサポートをいわゆる中年の“おじさん”が担当するという世界観。「おじいちゃんVtuber」も高齢男性が主人公と、その意外性が光っている。
「中年とおじいちゃんという年齢の高い男性キャラクターがメインになったのは偶然です。ただ、意外性のある2つの要素を掛け合わせて新しいものを作る、という描き方をするので、魔法少女に中年を掛ける、VTuberにおじいちゃんを掛けるという形で作品ができました。予想外キャラも作りやすくって、ストーリーを展開しやすいんです」
2022年6月5日に第1話を発表し、そこからほぼ毎日ストーリーを更新しているが、発表段階では先々の展開は考えていなかったのだそう。
「今は、第2部をスタートさせたところですが、最初の頃はここまでの展開はまったく考えていませんでした。設定も後から考えていった感じです。Twitterだとリアルタイムで読者の方の反応が見られるので、こういう展開を読者の方が望んでいるのかな?というのを模索しながら描いていってます」
第1話は5.1万いいね獲得(2022年7月現在)。しかし、これは魔木さんの経験上、特別大きなバズり方ではなかったそう。ただ、その後第2話を更新した際に反応が下がらなかったことから「続けるに値するネタだ」という実感が得られ、現在に繋がっている。
おじいちゃんの人柄も人気の理由。おばあちゃんはおじいちゃんの願望に気づいていた?
Twitterで日々更新しているからこそ、読者からの反応はよく見ているという魔木さん。その中で印象的だったことを聞くと、おじいちゃんが予想外にバズる回だったという。
「おじいちゃんが予想外に動画再生数がのびる展開があるのですが、読者の方からの反応は一番そこが高くて、正直驚きました。困難に打ち勝つようなストーリー展開が望まれているのではと思っていたんですが、そんなことはなくて、どんどん好転してくようなストーリーも新鮮に感じておもしろがってくれているのかな、という発見がありましたね」
おじいちゃんがVTuberとしてのびていくのには、数々のラッキーに恵まれてのことではある。しかし、読者がおじいちゃんのラッキーを応援したくなるのは、おじいちゃんが知らないことに対して謙虚で、人に対してとても丁寧な対応をとる人物として描かれているからだろう。かつての部下にひょんなことから再会するシーンもあるのだが、そこでもおじいちゃんは頼れる良い上司であったことがうかがえる。おじいちゃんの妻であるおばあちゃんは亡くなってしまっているが、おばあちゃんとも仲の良い夫婦だったようだ。
「おばあちゃんはおじいちゃんの願望にも薄々気づいていたんじゃないかと思います。敢えて指摘はしないけれど、心の中では『おじいちゃんが本来の自分を出せたらいいのにな』と考えていたのでは。自分の中での男女間の理想をこの夫婦には担ってもらっていますね。干渉しすぎず、でも受け入れる…それが夫婦として長続きする秘訣なのかな?と考えて描きました」
「おじいちゃんVtuber」は書き溜めをせずに、更新のたびに描いているのだそう。4コマスタイルで描いているが「大喜利やオチをつけるのは好きなので、苦じゃない」そうで、日課の一つとしてアップできているのだとか。第2部がスタートしたが、今後どういった展開を考えているのだろうか?
「おじいちゃんたちでVTuberのアイドルグループを作っていく様子を描こうと思っています。現在は高齢化社会と言われるように、さまざまな立場のおじいちゃんたちがいると思います。その人たちにスポットを当てていきたいな、と。自分も順当にいけば高齢者になっていくわけで、その時に選択肢がたくさんあったら楽しいなと思うんです。おじいちゃんがVTuberになったっていいよね、というのを表現していきたいです。読者の方に、年を取ることは悪いことじゃないというのがこの漫画を通じて伝わったらうれしいです」
「自分は漫画家に奇跡的になれた」と語る魔木さん。「Vtuberおじいちゃん」に限らず、さまざまな作品を描いていきたいのだそう。意外性のある作品を生み出すであろう、魔木さんの今後に期待だ。
取材・文=西連寺くらら