劇団ひとり監督「24時間テレビ」SPドラマへの思い明かす「純粋に事実の輪郭をはっきりさせて届けることが使命なのかな」
役者さんの力が存分に見える作品
――主演を務める浅野忠信さん、寺尾聰さんなど、実力派俳優の演技を目の当たりにし、いかがですか?
脚本を書く段階で、ものすごく想像を膨らませながら、いろんな可能性を考えているのですが、やっぱり現場で役者さんが演じると、自分が想像していた以上のものが見られますよね。浅野さんはそれが多分にあります。そんなに長く見せるつもりはなかったのに、浅野さんの顔があまりにも心情を語ってくれるので、想定よりも長くなりそうだなぁ…とか、そういうことは多いですね。
今回も名優ぞろいなので、僕が「こういうお芝居をやってください」と押し付けるというより、微調整だけさせていただいています。おそらく、皆さんの得意ジャンルであるお芝居を見せてもらっていると思うので、画に困ることはないです。逆にちょっと「寄り」のシーンが増えちゃう。ベテランの俳優さんは、カメラが寄った時の表情に、何とも言えない哀愁があったりするので。この作品は、役者さんの力が存分に見える作品になっているのではないかと思っています。
絵を目の前にするとすごく力を感じますよね
――実際に「無言館」に訪れて、絵を見た時はどう感じましたか?
絵は、日記や写真などとは違って、作品なんですよね。魂を込めて描くので、自分の分身のようなものなので、絵を目の前にするとすごく力を感じますよね。窪島さんの著書にも書いてあったのですが、絵を描いている時は、みんな絵を描くことがすごく好きで、喜んで描いている。戦争に行かなくてはいけないという気持ちもあるんだけど、絵を描いている時は、「絵を描くことが楽しくてしょうがない」という気持ちが伝わってくるって。
そんな特別なものだからこそ、「頭を下げられても、この絵だけは渡したくない」という、ご遺族の思いもすごくよく分かります。なので、今回の作品の中で、絵をただの小道具にしてはいけないなと思っていました。ものすごい数の絵があるので、全てにスポットライトは当てられないですが、扱う絵に関しては、ちゃんとしたライティングでお見せしないと失礼に当たるな、と思いました。
――今回の作品の中で、最も大事にしたことはどんなところですか?
戦没画学生の作品を守り続けたご家族の思いや、絵を引き継ごうと思った窪島さん、野見山さんの思いですね。その思いとはとても尊いと思うので、ただこんな事実がありました、と並べていくのではなく、丁寧に描かないといけないなと思いました。無理やりドラマチックな話にしてはいけないな、と。ここでひと盛り上がり欲しいな、と思うことはあるのだけど、無理やり盛り上がりを作るのは、僕のゲスな思いのような気がしたので、なるべく純粋に、事実の輪郭をはっきりさせて視聴者に届けることが、僕らの使命なのかなと。