コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、ヒーローに憧れた“世界一凡人”な主人公が、妹を守るため奮闘する姿を描いた作品『きわめて平均的な少年の話』をピックアップ。作者のムトウキさんが2022年9月27日にこの作品をTwitterに投稿したところ、1.5万以上(10月13日現在)の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、ムトウキさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。
ステータス全てが“平均”の凡人がヒーローになるまでを臨場感たっぷりに描く感動作
人類を守護するヒーロー(超能力者)たちが活躍する世界で、幼少期からヒーローに憧れ、いつかヒーローになることを夢見ていた主人公・佐藤。そんな兄の姿を見て育った妹の楓は、英雄協会に“怪力”の超能力を見出され、街に現れる怪物を次々に撃退するヒーローとして活躍していた。一方で佐藤は、17歳になっても学力や運動神経、身長や体重まであらゆるステータスが平均値であることから、自分自身を“凡人”と思い込むようになり、ヒーローになる夢を諦めかけていた。
ある日、佐藤と楓が出かけた街に、知能が高い“大災害クラス”の怪物が出現する。楓の怪力でも歯が立たない怪物を前に、その場から逃げ出そうとする佐藤。しかし、幼少期の自分が抱いていたヒーローへの憧れの気持ちを思い出した佐藤は、勝てる相手ではないとわかっていながらも「俺だってヒーローでありたい！」と意を決して怪物に立ち向かう。恐怖におののきながらも、怪物の一撃を素手で受け止める佐藤。すると佐藤に、パワーや速さ、スタミナ、ダメージまでをも敵と同条件にしてしまう“絶対平均値”の超能力が現れ…。
妹に劣等感を抱きながらも、楓を守りたい、ヒーローになりたいと強く願う佐藤の心情を臨場感たっぷりに描く本作。迫力あるアクションシーンや予想外の展開もあいまって、Twitter上では「かっこよくて鳥肌立った」「兄の器的にもめっちゃ強かった」「感動してしまった」「憧れほど人を動かすものはないって改めて気付かされました」など多くのコメントが寄せられ、話題を集めている。
「アメコミの流行に乗って初挑戦した“ヒーローもの”」 作者・ムトウキさんが創作の裏側を語る
――『きわめて平均的な少年の話』はどのようにして生まれたのでしょうか？
もう何年も昔ですが漫画賞を受賞して一応のデビューをさせていただき、下積みの一環として編集者さんと作ることになった一本です。当時はアメコミヒーローものの実写映画が日本でも盛り上がりだした頃で、“2022年現在ほど皆が見ているワケではないけれど感度の高い人は確実に見ていた”という一大旋風目前という空気感の頃でした。
この頃は色々な出版社(特にオタクっぽさの強い雑誌)なんかでアメコミオマージュのヒーローものの新連載や読切が打ち出され始めて、おそらく多くの編集者が「次はアメコミヒーローものが絶対にくる!! 今ヒーローもので当てれば、次の時代の主役を獲れるはず!!」という目論見を抱いていたはずです。自分もアメコミ映画が好きでしたし、編集者とも気があったのでこのジャンルに挑戦してみました。ただ、ジャンルそのものを皮肉ったメタな作品が大流行していた時代でもあって、こんなひねくれた漫画になったんだと思います。
ちなみにこの漫画が今はなき小さなウェブ漫画サイトに掲載された直後、少年ジャンプで『僕のヒーローアカデミア』の連載が始まったことで「もうヒーロー物はダメだ、別ジャンルに行こう」と編集者がアッサリ方向転換したのが印象的でした。
――本作では、“平均”を武器にヒーローとして才能を開花させるキャラクターが斬新で、とても印象深いです。『きわめて平均的な少年の話』の登場人物を創作する上でのこだわりや、意識したことなどがあればお教えください。
ヒーローものというジャンルで描かれる“全能感”とか“予定調和”みたいな安心感をすごく感じにくい時代だったので(その空気は未だに続いていますが)、読者としても作者としてもそういうストレートなものに共感できずノれなかったため、時代の空気でもあった“無力感”、“絶望感”を入り口にキャラメイクしたはずです。
当時はそういう陰気でハードな物語をキャッチーなビジュアルに包んでお届けする作品が流行っていたし、マーベル映画やヒロアカも意識的にそういう作りにしてあるはずなので、なんというか当時の定石だったんだと思います。
――『きわめて平均的な少年の話』への思い入れや、創作の際に印象に残っていることはありますか？
全体的に自分の実力不足やセンスの乏しさを痛感した作品で、当時を思い返すと苦しい思い出しかないし、実はつらくて読み返してもいないのですが、そういう無力感を当時も当時なりに抱えていて、それが作品に反映された結果のあのお話なので、自分の作品だなあという親しみはあります。
――ムトウキさんは本作以外に、『未来人世代』などで人間に猫耳や翼、鱗が生えたキャラクター“未来人”を多種多様に描かれているのが印象的です。ムトウキさんにとって、キャラを創作する際のきっかけとなるネタやこだわりがあればお教えください。
自分の描きたいものが人間ドラマの部分に偏りすぎているせいで、画作りや絵の鍛錬をおろそかにしてきましたから、いま創っている『未来人世代』では、ファンタジージャンルで人気のあるキャッチーなデザインをまず借りてきて、それが実在するとしたらどういう生態になるか？という理屈を後付でつけて実在感を担保するよう体の構造やデザインを修正するという方法で創作しています。
実力不足を、デザインの力でもって(世界観を壊さない範囲で)なんとか人目を引き付けるよう愛されるよう作り込んでいく、という試行錯誤を重ねていくのがこだわりといえばこだわりです。
――今後の展望や目標などがあれば教えてください。
当面は『未来人世代』のお話を進めていきます。長編である本編を進めつつ、Twitterで公開して単行本にも収録する4ページ漫画でサイドストーリーをたくさん描いていけたらな、と。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
雑誌媒体ではなく個人で作品を発信しているので、本当に皆さんのコメントやレビューに報われながら作品作りをしています。自分のために創っている個人的な作品を、もし伝わる人がいればという気持ちでおそるおそる公開しているだけなので、自分の作品が伝わってくれるちょっとひねくれた(失礼)人たちは自分にとって本当に特別です。どうもありがとうございます。
『未来人世代』をまだ読んだことがない人は、PixivFANBOXやニコニコ静画で本編を無料公開しているので是非読んでみてください。もし気に入っていただける方おりましたら、握手をしてください！
この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。
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