ドラマ誕生のきっかけは長崎旅行「日曜劇場になるんじゃないか」
――本作制作の背景を教えてください。
野木亜紀子(以下、野木):2018年に「アンナチュラル」で市川森一脚本賞の副賞としていただいた長崎旅行に新井順子プロデューサーと一緒に行った際に、当時の県知事が「ぜひ長崎を舞台にしたドラマを」とおっしゃられていたんです。
映画のあとに同じ3人で何を作るかというときに、ふと長崎旅行のことを思い出して。「端島が舞台の物語なら日曜劇場になるんじゃないか」と言ったら、新井さんが「ある気がする!家族も描けるし!」と乗ってきた。
じゃあどういう話にしようかという部分は、映画の撮影が終わった打ち上げも兼ねて、塚原さん、新井さんと一泊二日で温泉に入りにいって話し合いました。
そのときに、塚原さんが「過去だけではなく現代のストーリーも取り入れて、映画『タイタニック』(1997年)で、ヒロインのローズが過去語りをするような構図にできないか」とアイデアを出してくれたんです。
塚原あゆ子(以下、塚原):過去の時代を描くとなると映像化のハードルが上がるだけでなく、視聴者の皆さんに感情移入してもらうことも難しくなります。だから(新井)順子さんから「時代モノかもしれない」と聞いたときに、監督として聞き捨てならない!と思って(笑)。
私は2人の長崎旅行に同行できなかったこともあり、いい意味で客観的に端島について知ることができたのも、今となっては功を奏したと思います。
当初は行ったことがない島の物語に正直のめり込めなかった部分もあったのですが、話を聞くうちに日本のエネルギーの主役が石炭から石油に移行した時代のダイナミックさを改めて知ることができて。そんな歴史的時代にあったさまざまな愛を描くのは、魅力的だなと思うようになりました。
――そんな本作は、このチームで手掛ける初めての日曜劇場となりますね。
野木:脚本を書く立場としては、日曜の夜に見ていただくドラマなので、幅広い年齢層に見てもらえる作品になるように意識しました。
日曜劇場といえば「半沢直樹」のような痛快な逆転ストーリーのイメージが強くなっていますが、本作は原点回帰ともいえる家族やヒューマンドラマとしての要素が強い作品になっています。
塚原:家族や友情も含め、いろいろなラブストーリーが詰まっているので、それが日曜劇場らしさになっているのではないかな。
実は、私自身が見て影響を受けてきた過去の家族ドラマも意識していて、クランクイン前に見直してから撮影に臨みました。そんな素晴らしい作品と自分の作品を並べるのはおこがましいですが、偉大な作品の要素を少しでも取り入れられたらいいなと思っています。