「新鮮さを失わないように」中谷美紀の作品への向き合い方
キャリアを積んでも挑戦する心は忘れない
ここ数年は先の読めないサスペンス「ゴーストライター」(2015年フジ系)で作家の遠野リサ役、コミカルな「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」(2016年TBS系)で独身アラフォーの橘みやびを演じた。女性の作り手と組むことも増えている。
「『ゴーストライター』は、橋部敦子さんの脚本と土方政人さんの演出が素晴らしくて、毎回、心を動かされていました。オリジナル作だったので、私が演じた作家のリサと、ゴーストライターの由樹(水川あさみ)が最後にどうなるかは分からず、水川さんの器用さに助けられながら最終回まで演じましたね。『私 結婚できない―』は、水野敬也さんの原作がありますが、脚本・金子ありささんの書かれた企画書が面白過ぎて、人目もはばからず笑ってしまったのは初めてでした。絶対にお引き受けしたいと思いました。ドラマ本編では、藤木直人さん演じる恋愛カウンセラーの十倉誠司から結構ひどいことを言われるんです。『プレ更年期のうぬぼれ女』とか(笑)。でも、ディレクターの塚原あゆ子さんがとても細やかな演出をしてくださったので、過激に見える場面でも安心して委ねることができました」
「私 結婚できない―」では藤木と一緒に長ゼリフの練習をし、本番でポンポンとテンポ良く掛け合いをする。それがとても楽しかったとか。
「コメディーは演じていて発散できるんですよね。笑いのさじ加減は難しいけれど、脚本の意図と役者の呼吸と演出がぴたりとハマったときには、幸せだなと思います。年を追うごとに、世の中がどんどん世知辛くなってしまっている気がして…。こんなときだからこそ、せめてドラマでは皆さまに笑っていただけたら。本当は淡々とした日常を描く作品も好きなのですが、今はそういうものがハマらない時代なのかもしれません」
ドラマ最新出演作は「連続ドラマW 東野圭吾『片想い』」(WOWOWプライム)。女性として生まれながら自らは男性であると思う主人公・美月を演じる。性同一性障害を抱えるチャレンジングな役だ。
「この役はむしろ男性が演じた方が良いのではと迷ったのですが、挑戦してみました。新しい作品では極力、演じたことのない役柄を選ぼうと思っています。一人の人間なので限界はあって、声も体も顔もそんなに変えられるものではないけれど、新鮮さを失わないように心掛けています。でもここまで来たら、もうそんなに引き出しがありませんが(笑)」
これまでのキャリアに甘えず、自分を客観視し、さらに新しいものを見せようとする。現在、映画や舞台でも活躍しているが、ドラマは欠かすことのできないステージの一つだ。
「ドラマの現場にいると、やはりスタッフの方は大変だなと実感します。そんなハードな作業があり、時間に制限がある中で物語を作り、役者がセリフを憶えて演じ、演出や編集が加わって完成したパッケージにする。そのプロセスがテレビの歴史と共に何十年も変わらず続いているのはすごいことですよね。この先少しずつ体力が衰えていくのでしょうけれど、連ドラはとにかく肉体労働であり季節労働でもあるので、日々体力を失わないように山を歩いたり、自転車に乗ったりして足腰を鍛えて撮影に備えています」
連続ドラマW 東野圭吾「片想い」
10月21日(土)スタート WOWOWプライム
毎週土曜夜10.00−11.00※第1話無料
東野圭吾原作の〝ジェンダー〟をテーマにしたヒューマンミステリー。中谷は性同一性障害の主人公を演じる。