ミスターパーフェクト俳優・沢村一樹の心に刻まれているデビュー当時の言葉とは!?
名脚本家・岡田惠和との栄誉あるご縁が生まれる
そして記憶に新しい、朝ドラ「ひよっこ」(NHK総合ほか)での実(みのる)父ちゃん役。放送中から周囲の反響の大きさに、彼自身も驚かされたという。
「実が失踪したら日本全国どこへ行っても『あ、こんな所にいた! 早く帰ってあげて』って(笑)。もちろん、他の役の方々も『見てるわよ』って声は掛けられたとは思うのですが、実は『こんな所で何やってるの!』って、気持ち良くツッコミやすい役だったんでしょうね。記憶もはっきり戻らないまま放送が終わっちゃったから、今でも『記憶戻った?』と聞かれますしね。そんなに出番は多くないんですけどね。でも貴重な体験ができて。そういう意味ではすごくありがたい役を脚本家の岡田(惠和)さんにいただいたなと思っています」
家族のために出稼ぎに出るも、仕送り金をひったくられたショックで記憶喪失になってしまった実。
「記憶をなくしても人格は変わらないと思っていたので、そこだけは大事にしようと思って演じていました。周囲にいる人のことを誰も知らないって、すごく不安なことだと思うんですよね。足が一歩、前に出ないというか、怖くて何もできなくなるんじゃないかと考えていました」
家族思いの父ちゃんの受けたショックを体現する繊細な演技が、大きな反響を呼んだのだ。そして岡田がまた脚本を手掛ける「ユニバーサル広告社-」への連続出演が決まる。「沢村さんの演技が大好き」と語る岡田が手掛ける作品には、和久井映見と共に常連的存在になってきた。
「岡田さんは、僕がデビューした年に菅野美穂さんが主演されていた『イグアナの娘』('96年テレビ朝日系)も書いていらして。当時僕は視聴者として大ハマりして毎回欠かさず見ていた身なので、今の状況は本当にありがたいし、こんな栄誉はないな、と感謝です。この作品は、ドキドキハラハラ、というより、金曜の夜8時にボーッとおつまみ食べて晩酌でもしながら、ゆったりと見てもらいたいような番組ですね。キャストも明るいメンバーばかりで楽しいです。和久井さんに下ネタは…たま~に、恐る恐る、嫌われない程度の軽い球を投げてみるんですよ。先方は絶対受け取りはしませんよ、でも無視もしません。一応、ポンポーンと転がっていくボールを見守ってくださっている感じでしょうか(笑)。そこに(共演の)片瀬(那奈)さんが走ってきてそのボールをぱって拾って投げ返してくる(笑)」
そう、今となっては、作品ごとに「今回の現場ではエロトークをするのか? しないのか?」も議題に上る、希有な俳優となった。
「でもまぁ、今はだいぶ減りましたよ。50歳にもなって下ネタトークばかりするのって、さすがに大人げないかなと。だから、今撮影中の『ユニバーサルー』の撮影現場では、特にしていないですよ(笑)」
ちゃめっ気たっぷりに語るあたり、まだまだソッチも期待ができそうだ。最後に、ここまで俳優として成長した彼を支えた先輩の言葉を尋ねた。
「『続・星の金貨』の監督の一人、五木田亮一さん――もう亡くなられたのですが――から言われたんです。弁護士とか医者とか賢い役をやるときに『君はぁー(ハァ)、今ここでぇ~(ハァ)』っていう、息を抜く芝居。『あれだけは絶対にするな!』って。ちょっとそうなりかけているからって。それがすごく役に立っていますね(笑)。デビューの年に言われたその言葉を、ずっと頭に刻んできました。逆に言うと、その1個だけかもしれないですね。それは大事にしています。それをあのときに聞いておくことができて、本当に良かったと思うんです」