――『なにが心にあればいい？』という標題にインパクトを受けました。第三者に問い掛けるアルバムタイトルは珍しい気がします。
タイトルに関しては、なかなか「これだ」というものが出てこなくて、すごく悩みました。
最終的に「自分の気持ちをそのまま語り掛けるような文章でもいいんじゃないか」ということになって、このタイトル『なにが心にあればいい？』がスッと浮かびました。それぐらい強い思いで問い掛けたかったんです。
――前作『人と時』とはかなり雰囲気の異なるタイトルですが、周りの反応はいかがでしたか？
スタッフは「熊木さんらしいね」と言ってくれました。その理由が「何となくちょっとだけ小難しいから」という(笑)。
――音の傾向も前作とはかなり異なって、バンドサウンドが押し出されています。
とにかく、今回は「バンド形式がいい」と思ったんですよ。みんなと一緒に演奏したかった。それぞれの(メンバーの)気持ちを曲に乗せてほしい気持ちもあって、曲作りの段階からバンドで歌うイメージができていました。
メンバーにも、たくさんは言わないですけど、「こんな感じで」ってリクエストはしましたね。バンドで集まるのは前回のワンマンライブ(2019年11月)以来でした。
久しぶりに演奏したので、それはそれは楽しかった。みんなの顔を見ているだけでもうれしいというか。
――初回限定盤に付いているDVDには、スタジオライブ映像やレコーディングドキュメントも収録されていますね。
スタジオライブは初めてだったんですけど、通常のライブと同じ気持ちで取り組みました。でも、レコーディングが始まる前には珍しく口上を述べたんです。(少し野太い声で)「みんなちょっと座って、えーと今日は」みたいに。
そんなことまったくしたことないのに、今回はやっておこうかなという気持ちになって。そしたら森田くん(共同プロデューサー、ベーシストの森田晃平)が「これ、熊木さん毎回やっているから」って言うんです。まさか、やってないですよ(笑)。
――森田さんはPrimitive Art Orchestra、木村イオリさんとのデュオなど、ジャズのフィールドでも精力的に活動なさっています。
4年ほど前に知り合って、バンドマスターを務めてもらったときに「ライブを創っていくのがすごくうまい人だな」と思ったんです。ライブ用に過去の曲のアレンジもお願いしたんですが、「こういう感じになるのか」と思うくらい新鮮だったんです。
彼がサポートすると、すごく歌いやすいんですよ。彼が作る音の中に、しっかり私が存在する場所があるというか。今の自分のトーン、声の出し方とかもすごくハマる音作りをしてくれていると思います。実は、今までそんなにバンドの音を聴いて歌ってこなかったんです。
――それは意外です。どういうことですか？
自分より年上のミュージシャンが多いバンドだったこともあって、緊張して後ろを振り向けないような、「恐縮です」という感じが続いていました。現在のバンドは年齢も自分に近くて、より一緒に音楽を作っているという感じがしますね。
――『なにが心にあればいい？』を制作するに当たって、最も心掛けたことは？
メッセージに希望を込めることを一番大切にしました。私の音楽は一聴すると結構穏やかで、ネガティブではないけれど他人を励ますという感じでもなかったんです。でも今回は思いっきり前向きというか、希望という言葉を未来に向けて放つというか…。
「今、生きているのはすてきなことなんだ」という気持ちを前に前に持っていって作りました。そこが以前との大きな違いかもしれません。
――それでいて、前作としっかりつながっているところもあります。「雪〜二人の道〜」は、前作のラストに入っていた「雪」の後日譚ですね。
最初から二部作にしようと考えていたわけではなかったんですが、続編があったら面白いかなと書きました。登場人物は同じで、「雪」では二人とも同じ場所にいたんですけど、「雪〜二人の道〜」ではそれぞれの道を行く男女の違いを描きました。曲調も本当にバンドサウンドをイメージして作りましたね。
――前回に続いて「バイバイ」というフレーズが出てくるのに、「雪〜二人の道〜」の歌詞にはそこが掲載されていません。これは意味深だし、驚かされます。
これは森田くんのアイデアです。私もびっくりしました(笑)。「雪」で「バイバイ」って歌っているんですが、そこへのオマージュのような。
他にも、このアルバムには、ノイズ的な音や、子どもの声が入っているところもありますが、それも森田くんの世界観です。
11月11日(水)発売
＜初回限定盤＞
価格：4800円(税抜)
＜通常盤＞
定価：2727円(税抜)
【公式HP】https://www.kumakianri.jp/
