勘九郎さんは金栗さん役にぴったりだと思います
――金栗四三を演じている勘九郎さんの印象はいかがですか?
2017年の6月からトレーニングを始めて、スウェーデンのストックホルムにも同行させていただいて指導を続けてきましたが、非常に真面目な方ですし、いい人で、大好きです(笑)。
僕は実際の金栗さんにはお会いしたことはないんですけど、金栗さんも真面目で、まっすぐ前へ突き進む人だったと思うんです。まさに勘九郎さんもそういう人で、役に対して真摯に向き合っていて、本当に少年のような心を持ってます。
だから、金栗さん役にぴったりだと思います。元からそういう人だったから金栗さんの役を演じられるのか、役を演じているうちに金栗さんみたいになったのか分からないですけどね。
――勘九郎さんの走りについては、具体的にどのようなアドバイスをしているのでしょうか。
トレーニング前に体型を見せてもらったとき、歌舞伎俳優さん特有の筋肉がついていたんです。それではマラソン選手には見えないので、まずは体作りから始めることになりました。
撮影開始までは、1年弱の時間があったので、長期的な計画として、食生活のカウンセリングをして、そこから何回かやりとりをしていって、長距離の基本のランニングフォームを教えていきました。
勘九郎さんは、元から運動能力がすごく高い方です。短距離を走ると相当速いですし、ジャンプ力もあるので、陸上競技だったら、跳躍の選手に近い“マシュマロ”のような、質がいい筋肉がついてるんですよ。選手にしたいくらい(笑)。
長距離の走り方の基本を教えても、勘九郎さんはすぐにマスターしていました。
これは役者さんだからということもあると思うんですが、1回教えると体が覚えているという勘の良さもあり、指導するのが楽でした。
――長距離選手に見える体作りをしていったとのことですが、勘九郎さんの体型にはかなり変化がありましたか?
勘九郎さんは、裸で水をかぶるシーン(第2回で放送された「四三の冷水浴」のシーン)をすごい気にされていて、それがクランクインしてすぐの撮影だったんです。
そこに向けて食事療法と炭水化物抜きをして、劇的に痩せたので、マラソン選手のような体になっていました。
その後、1912年のオリンピックのシーンの撮影で、スウェーデンのストックホルムでロケをしたときに、たくさん走るシーンがあったんです。そしたら、それがいいトレーニングになって、どんどんいい足になっていました。マラソン選手っぽいふくらはぎになっています。
――金栗四三のランニングフォームはどのように解釈して指導されていったんですか?
いろんな資料を見ながら、演出の方たちとも打ち合わせをして、僕なりに「金栗四三さんの走りはこういうもの」と思えるランニングフォームを作ったんです。それを勘九郎さんにお伝えしています。
金栗さんは若い時の写真や、ストックホルム大会以降に出場したオリンピックのスタートの前の一瞬の写真、あとは70歳くらいになって子どもたちと走っている写真くらいしか走りについての資料がないんです。そこから、走り方を研究していきました。
非常に体幹がしっかりしていて、ぶれていない。腕ふりは肩を下げて後ろのほうに持っていく、あとはランニングシューズじゃなくて足袋を履いているので、すり足のように走るフォームになっています。資料を見ながら、自分でも実際に勘九郎さんが履いている足袋をはかせてもらって走ってみました。
当時とは地面も違いますからね。そういうことも想像しながら、走り方を考えていきました。また、少年時代の荒削りな走り方から、選手として走りが洗練されていくようにと意識しています。
指導をする上では、最初から金栗さんのフォームを真似したら怪我をしますから、ランニングの基本から始めていきましたよ。金栗さんの走りを伝授するのは最後の方にしました。
――金栗四三のランニングフォームは合理的だったんでしょうか。
当時の他の日本の選手とは比較できないので難しいですね…。ストックホルムオリンピックの映像で、外国人の選手の走りを少しだけ見たときに、金栗さんの走り方のほうが、長距離に適した走りだなと感じました。
金栗さんの走りは、今でいうとスピードランナーではないんですよね。上下動の少ないスムーズな走り方をしますし、子どもの頃からの培ってきた基礎体力もあったでしょうから、持久力タイプだったのかなと思います。