父、香川照之、佐藤浩市…井之脇海には「お父さん」がいっぱい
――12月公開の映画「サイレント・トーキョー」では、犯人に操られるテレビ局契約社員・来栖を演じられます。
この作品は、脚本を読んだそれぞれの捉え方…テロが起こったときのジャーナリズムの問題、人と人との問題についての考えがみんな違っていたんですよ。
それを現場ですり合わせる作業がやっぱりすごく面白かったです。みんな自分の意見を持っていて、それは全部間違いではなくて。それだけみんなが考えられる、何層にも奥の深い作品になっていると思います。
僕が演じる来栖の行動は、多分事件が起こった時に大多数のみんなが取ってしまうものだと思うんです。
映画を見ることで、その恐怖、無力感、窮屈さみたいなものを追体験してもらえたらいいなと思いますし、お客さんの目線になれるように、来栖自身の心の揺れや彼なりの正義、ナイーブさとのバランスを監督と話し合って、本当に二人三脚で作り上げた感じです。
――役へのアプローチはいつもそういう感じですか?
何か不安になって、事前に頭ばっかり使って考えてしまう癖があって。特に来栖はすごく難しい役だったので、そこに入るまでに何度も何度も考えて、監督と話して、リハーサルもして、どう見せるかも意識して…いざ演じると忘れちゃいますけど(笑)。
理想は、考えて考えて考えた上で、現場で忘れてやること、という考え方でやっています。なかなかうまく行かないですけど。
――うまく行かなかった例を、キャリアの中から挙げられますか?
佐藤浩市さんと高校2年生の時に共演させていただいた「ブラックボード~時代と戦った教師たち~」(2012年、TBS系)ですね。1970年代のヤンキーを演じるということにとらわれ過ぎてしまって…。
僕は声質も優しいし怖くも見えないから、どうしたら怖く見せられるか、ここはこうして…ってすごく考えて行ったんですけど、いざ浩市さんと向き合って芝居したら全然通用しなくて。いい意味で僕の考えてきた芝居を壊してくださって、芝居というものを体現してくださった。これも大きな転機でしたね。
――佐藤さんとは「サイレント・トーキョー」でも共演されていますね。久々の再会ですか?
「ザ・ファブル」(2019年)でも共演はしているのですが、同じシーンがなかったんですよ。今回の「サイレント・トーキョー」もあまり絡みがないので、今でもまだすごく怖い、すごく愛のあるけど怖い存在です(笑)。
僕はどちらかというと息子さんの寛一郎と仲良くて、寛一郎から浩市さんのお話をよく聞くので、下手したら自分の“疎遠なお父さん”みたいな感覚があって。
僕と寛一郎が出た「青と僕」(2018年、フジテレビ)という作品も浩市さんが見てくださったと寛一郎が言っていたので、多分僕と寛一郎の関係も知ってくれていると思うんですけど、何か恥ずかしくて。先日、制作発表でご一緒したときも「お久しぶりです」としか言えなかったです(笑)。
――本当に「父と息子」に近い感覚ですね。というか、井之脇さんにはお父さんがいっぱいいますね。
そうなんです、ありがたいことに(笑)。だから、いつか浩市さんとも対等にお話できる日が来ることを勝手に願っています。追い付くのは無理だとしても、せめて同じ土俵に上がれるように僕がならなきゃいけないと。