<いだてん>阿部サダヲ率いる新たな物語へ!第1部の名シーンと第2部見どころを演出陣に聞いてみた
井上さんは“増幅力”がすごい
――では、他の方の演出回の中で「面白いな」と思ったものを教えていただけますか?
井上:それもたくさんありますね。
一木正恵(以下、一木):私が「すごい!」と思ったのは、第8回(2月24日放送)でストックホルムに旅立つ弥彦が、お母さん(白石加代子)と別れるシーンです。井上さんが演出された回ですね。
井上:え、すごい前の回(笑)。その撮影したのもう1年前くらいですよね。
一木:井上さんって、群衆の中で際立つ部分と、それ以外の人たちに、同時刻に起こる悲喜こもごもを描くのが上手なんだと思うんです。
井上さんは、一連の時間の中にものすごく詰め込んでいくんですよ。あたかもスローモーションを見ているかのように、1秒が10秒に感じられるくらい、いろんな人間の感情が同時に動く瞬間の湧き上がりをまとめられる…“増幅力”がすごいと言うんでしょうか。
井上:昔、簡単に書かれているシーンを難しくし過ぎてしまって、混乱させてしまったことがあります(笑)。貧乏性なんです。
一木:「1秒のシーンでこんなに演出するの?」って思うこともありますね(笑)。あの別れのシーンは、たくさんの人間の渦巻く感情を一本にまとめられるなんてすごいなって思いました。
西村:僕は、姉さん(一木)が演出した第12回(3月24日)の、ストックホルムでの四三さんのマラソン後のシーン。四三さんのそれまでのストックホルムの力走はもちろんですが、その後部屋で倒れている姿を見たときの治五郎さんの顔が印象に残ってます。治五郎さんの選手への優しさとか、「連れてきてごめん」とは言わないけど、そんな心境が全部現れている表情に感じました。
一木:ストックホルムでは弥彦も飛び降りようとしているし、嘉納さんは連れてきた2人の選手を失うかもしれなかったんですよね。それくらいストックホルムオリンピックは過酷だった。うれしさだけではない、苦味みたいな部分もすごく感じた回でした。
私は、四三さんが見つからないことを報告する嘉納さんが「Dissappeared」って言うシーンの表情もすごく好きなんです。なんかゾッとする感じも出ていて。あのシーンは1発OKでした。
西村:弥彦が400mを走った後(第11回)も、役所さんの表情がすごく良かったです。若い人が走っている姿に、役所さんは本当に感動していらっしゃった感じがしました。
井上:人が動いてたり走ってたり一生懸命やっている姿に、見ている側が感動するのって、スポーツだけのことですもんね。そこに理屈はないけれど、そうなってしまう人の感情を体現しているのが役所さんだと思います。
役所さんの表情で言うと、僕はたけ(西村)の演出した第6回(2月10日放送)の、オリンピックに自費で行くことを説得するシーンが印象的だった。すごくいいことを言っているのに、100%真心だけではないところが宮藤さんの台本の面白いところで、その台本に役所さんがなんともいえない深みを出してる感じがしました。
西村:台本にはなかったけど、役所さんが「『情けないなぁ』って言わせてほしい」っておっしゃってくださって、せりふが追加されたんですよ(笑)。