吉田鋼太郎はリビングを「劇場化」する“芝居筋”の持ち主 挑戦し続ける60歳
助演男優賞に輝いた「カラマーゾフの兄弟」の怪演
ところで、6年前に放送されたドラマ「カラマーゾフの兄弟」(2013年、フジテレビ系)を見て、吉田の芯のある“芝居筋”を感じた人はいるだろうか。
ロシアの文豪・フョードル・ドストエフスキーの名作をドラマ化した心理ミステリーで、吉田が演じたのは、市原隼人、斎藤工、林遣都が演じた三兄弟の父で資産家の黒澤文蔵だ。
奇しくも…なのか、制作サイドの遊び心からか「おっさんずラブ」と同じ黒澤であり「武」と「文」の一文字違いの役だが、その人柄もまるで正反対。文蔵は人への愛を微塵も感じられない暴君親父で、息子を怒鳴り散らし、暴力を振るい、怒り狂っていた。
画面から飛び出して殴りかかってくるようなその熱量といったらとてもテレビサイズに収まるものではなく、吉田が数多く出演してきた蜷川幸雄演出の舞台を見ているかのようだった。
立派な調度品が並ぶお屋敷に飾られた文蔵の眼光鋭い肖像画は、ひときわ存在感を放ち、この作品で吉田は、第76回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の助演男優賞に輝いている。
朝ドラで女性ファンが急増!
それから1年後、吉田鋼太郎の名を一気に広めたのは、NHKの連続テレビ小説「花子とアン」(2014年)で仲間由紀恵演じる伯爵家の娘・葉山蓮子の夫を演じた嘉納伝助役だろう。
九州の石炭王である伝助は、金の力で若く美しい蓮子を妻にしたが、教養の無さと横暴さで蓮子の信頼は得られず、絶縁状を新聞に掲載されてしまう。恥をかいた伝助だったが、蓮子を好いていた気持ちに偽りはなく、金を使うことでしか愛の表現ができないただ不器用な男であったことが描かれていた。
別れた伝助と蓮子が再会したシーンでは、去り際に伝助から蓮子のおでこにキスをした。実はそのキスは、吉田のアドリブだったことが明かされ、大きな話題となった。最後の共演シーンであり、撮影的にも最後だったため、吉田から台本にないキスをしたそうだが、仲間由紀恵も大層驚いたに違いない。しかし、結果として伝助の男らしさや未練を表現する、とても人間味のあふれるシーンになっていた。
悪役として登場した伝助だが、蓮子への一途さが「切ない」との声が徐々に高まり「お金持ちがフラれるの切ない」「丸出しの九州弁が可愛い」「鋼太郎さんの色気がすごい」と回を重ねるごとに伝助ファンを増やしていったのである。